2025年9月19日、防衛省が設置した「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」は、最新の政策提言を盛り込んだ報告書を中谷防衛相に提出しました。本報告書は、ロシアのウクライナ侵略を教訓に、抑止力・対処力を抜本的に強化するための具体的な施策を提示しています。特に、防衛産業戦略の新規策定、装備品の国内生産・サプライチェーン強靭化、そして次世代動力を用いた潜水艦導入(原子力潜水艦を含む可能性)などが注目を集めています。
公式報告書全文は防衛省サイトで公開されています
👉R7.9.19:防衛力の抜本的強化に関する有識者会議(PDF)
目次
国際情勢の急激な変化と防衛力強化の必要性
報告書は、現在の国際情勢について「ロシア・中国・北朝鮮の戦略的連携」や、米国における再び強まる「米国第一主義」など、2022年に策定された安保3文書では想定していなかった変化が加速していると指摘しました。このため、防衛力強化は単なる装備品更新ではなく、官民一体での防衛産業戦略再構築と長期的な継戦能力の確保が不可欠だと強調されています。防衛産業戦略を策定し、国内の生産基盤や研究開発体制を整えることで、他国に依存しない自律的な防衛体制を築く狙いです。
防衛産業戦略の策定と国営工廠の検討
提言の目玉の一つが、防衛産業戦略の新規策定です。ウクライナが自国で装備品を十分に生産できず、米国などの支援に大きく依存している状況を踏まえ、日本も有事に備え、国内で必要な装備品を迅速に生産できる体制を構築する必要があるとしています。そのために、国営工廠(こうしょう)の設置を検討し、AI・無人機など先端技術を持つスタートアップ企業の参入を促す調達制度改革を提案。省庁横断的な「防衛産業戦略」を策定し、サプライチェーン全体を強靭化することが求められています。
装備品輸出緩和と国際協力の強化
報告書では、防衛装備移転三原則の運用指針を緩和し、同盟国や同志国への装備品輸出をより柔軟に認めるべきだと踏み込んで提言しました。特に、他国が脅威に直面している場合には輸出制限を設けない選択肢も提示しています。装備品輸出緩和は、防衛産業基盤の維持・発展に寄与し、国際的な安全保障協力の強化にもつながります。防衛産業戦略と連動させることで、日本の技術力を国際社会の抑止力向上にも活かす狙いです。
原子力潜水艦を含む次世代動力の検討
もう一つ注目すべき提言が、原子力潜水艦を含む次世代動力を活用した潜水艦の導入です。現在、海上自衛隊の潜水艦はディーゼルエンジンとリチウムイオン電池を組み合わせていますが、長期潜航や長射程ミサイルのVLS(垂直発射装置)搭載には船体大型化と新動力が必要です。全固体電池や原子力推進を含む技術選択肢が検討課題に挙げられ、将来的に日本が原子力潜水艦を保有する可能性も議論されています。政府は原子力基本法に基づき「原潜保有は難しい」としてきましたが、国際情勢次第では再検討される可能性があります。
防衛力整備計画の柔軟な見直しと前倒し改定
現行の防衛力整備計画は2027年度までを対象としていますが、報告書は「見直しのサイクルを柔軟化すべき」と提言。国際情勢の変化に応じ、必要に応じて前倒し改定を行い、長射程ミサイルや新型潜水艦などの装備品調達を加速する必要性が指摘されました。これにより、抑止力・対処力を短期間で強化し、万一の有事に備える体制を確立します。
今後の課題と展望|防衛力強化に求められる透明性
防衛力強化、防衛産業戦略、装備品輸出緩和、原子力潜水艦導入といった提言は、日本の安全保障政策を大きく変える可能性を持っています。しかし、国民の理解と支持が不可欠であり、防衛省は今後、再発防止策やコスト見通しを含む詳細な情報を公開する必要があります。防衛白書などの公式資料(→ 令和7年版防衛白書PDF)を通じ、装備品調達や防衛産業戦略の進捗が透明に報告されることが期待されます。国際社会と連携しつつ、自国防衛の自律性を高めるための議論は今後さらに加速していくでしょう。

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