韓国政府が導入した「中国人向けビザ免除政策」が、国内外で深刻な副作用を生んでいる。
経済回復を狙った観光優遇策は一時的な集客効果をもたらしたが、その裏で治安悪化と社会不安が進行している。
若者の大量失踪、海外詐欺事件、不法滞在者の増加が同時発生し、国家としての統制力の限界が露呈している。
目次
海外で広がる「監禁型詐欺」

2025年に入り、カンボジアなど東南アジア諸国で韓国人が関与する詐欺事件が相次いで発覚した。
主な手口は、SNSや求人サイトを通じて「高収入」「海外勤務可」などと募集し、応募した若者を現地で拘束して詐欺に加担させるというもの。
多くのケースでパスポートや携帯電話が没収され、外部との連絡を絶たれた状態で詐欺業務を強要されていた。
現地で監禁された被害者らは、逃亡を試みた場合に暴行を受けるなど、極めて過酷な状況に置かれていた。
一部の組織では、脱出の条件として「新たな人材を勧誘すること」を強要し、被害の連鎖を生んでいる。
これらの事件の多くは、中国系国際詐欺ネットワークと関係があるとみられ、
韓国人のみならず他国の若者も同様の被害を受けている。
韓国国内でも増加する行方不明者

韓国内でも、若年層を中心とした行方不明の報告が急増している。
警察庁によると、2024年の行方不明届は7万4000件に上り、過去最多を更新した。
失踪者の約半数が20~30代で、SNSやメッセージアプリを通じて怪しい求人に接触した後に消息を絶つ事例が目立つ。
一部は闇バイトと呼ばれる違法な業務への関与が確認されており、
詐欺金の受け取りや資金移動を担った末に行方をくらますケースもある。
警察当局は、こうした若者が海外の詐欺組織に吸収されている可能性を排除していない。
中国人観光客の急増と不法滞在

韓国政府は2025年9月、中国人観光客を対象にビザなし入国を認める新制度を施行した。
対象は3人以上の団体旅行者で、最大15日間の滞在を許可。
経済の活性化を目的とし、観光業界は一時的に好況を取り戻した。
しかし、制度導入から1か月あまりで不法滞在や犯罪の増加が顕在化した。
法務部によると、入国記録はあるが出国が確認されない中国人が1,300人を超えている。
入国時には把握できても、出国時の管理が追いつかず、追跡も困難となっている。
不法滞在者の一部は違法就労や詐欺に関与しているとみられ、
警察は中国系犯罪組織との関係を警戒している。
都市部では中国語を話す集団による不法取引が相次ぎ、
監禁事件や違法ギャンブルの摘発も増加傾向にある。
治安の悪化と市民生活への影響

2025年以降、韓国各地で凶悪事件が相次いでいる。
河川や倉庫で発見される遺体、身元不明者の増加、子どもを狙った誘拐未遂。
これらの事件の一部では外国人が関与した疑いが指摘されている。
警察庁は、外国人犯罪の検挙件数が前年同期比で28%増加したと発表。
特にソウル、仁川、釜山など大都市圏での発生が顕著で、
詐欺、暴行、窃盗、麻薬関連の事件が目立つ。
一方、地方都市では中国資本による不動産買収も進み、
地価上昇や生活環境の変化を懸念する声が出ている。
済州島では外国人による土地購入の約45%が中国人投資家によるもので、
現地住民の間では「地域のアイデンティティが失われつつある」との危機感が広がっている。
経済政策の副作用

中国人観光客の増加は一時的な経済効果をもたらした。
宿泊業や小売業の売上は前年より約40%増加し、
明洞や南浦洞など観光地では店舗の再開が相次いだ。
しかし、観光収益の裏では、
治安維持費や不法滞在対策にかかる行政コストも膨らんでいる。
入国管理の現場では人員不足が深刻化し、
観光収入よりも管理負担が上回るという指摘もある。
また、中国依存型の観光政策は政治的・文化的な摩擦を生む要因にもなっている。
都市部では中国語看板の増加や、中国人専用施設の乱立が進み、
一部市民の間で反発が高まっている。
社会構造に残る課題

韓国では経済格差と雇用不安が若年層に深刻な影響を与えている。
非正規雇用率は依然として高く、住宅価格の上昇も止まらない。
こうした社会的背景が、若者を違法ビジネスや海外詐欺に向かわせる要因となっている。
一方で、警察や政府の対応は後手に回っている。
行方不明者の追跡や海外犯罪の情報共有には国際的な連携が必要だが、
捜査当局間の情報交換は依然として限定的だ。
政府内では、SNSを利用した求人詐欺や闇バイトの監視強化を求める声が上がっているが、
実効性のある対策は見えていない。
信頼の揺らぐ社会

今回の一連の事象は、経済優先の政策が社会的リスクを軽視した結果を浮き彫りにしている。
外国人観光客を受け入れる一方で、
自国民の安全や雇用の不安定さには十分な対策が取られていない。
行方不明者の増加、不法滞在者の急増、治安の悪化、
これらは個別の問題ではなく、制度全体の緩みを示す現象となっている。
韓国政府は、観光・経済・治安を包括的に見直す必要に迫られている。
短期的な経済効果を追うあまり、
国家の安全保障や社会的信頼が損なわれれば、
その代償は長期にわたって国全体に影響を及ぼす。
まとめ

中国人ビザ免除政策は、
観光立国を掲げる韓国にとって経済再生の切り札とされた。
しかし、わずか数か月でその政策は治安の悪化と社会不安を伴う形で揺らいでいる。
若者の失踪、海外詐欺、外国人犯罪、不動産買収。
これらは単なる事件の羅列ではなく、国家の在り方を問う問題である。
経済と安全、開放と統制の均衡をどう保つか。
韓国は今、制度と現実の狭間で、
新たな社会モデルを模索する岐路に立たされている。

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