近年、日本への移住を希望する中国人が急増しています。特に注目されているのが、経営者向けの在留資格「経営・管理ビザ」を取得して移住するケースです。このビザは、資本金500万円以上を用意し、事業所を確保すれば取得可能であり、中国のSNSでは「年齢、学歴、言語の厳しい要件はない」といった手軽さが強調されています。このため、日本への移住を指南する投稿が多く見られます。
大阪における中国人の民泊経営
大阪では、経営・管理ビザを利用して民泊を経営する中国人が増加しており、住民からは不安の声も上がっています。例えば、大阪市西成区の天下茶屋地区に住む張華さん(仮名)は、2024年2月にリフォーム済みの木造住宅を約3000万円で購入し、民泊経営者として滞在しています。彼女は中国で日本料理店を経営していた経験があり、日本の文化や生活環境に魅力を感じて移住を決意しました。
張さんは、移住の方法を中国版インスタグラム「小紅書(RED)」で調べ、民泊が簡単に始められると知り、行政書士に依頼して約3か月で在留許可を取得しました。彼女は日本語が話せず、民泊用の物件購入も中国人の不動産業者に頼りました。現在、彼女は長男と共に日本での生活に満足しており、将来的には飲食店を開くことを希望しています。
特区民泊の急増と地域への影響
大阪市内では、特区民泊が急増しています。特区民泊は、国家戦略特区に認められた地域で営業できるもので、通常の民泊とは異なり営業日数に制限がありません。阪南大学の松村嘉久教授によると、2024年末時点で特区民泊の5587件のうち、41%にあたる2305件が中国系の営業者によるもので、特に西成区での増加が顕著です。
この急増は、地域住民にとってさまざまな影響を及ぼしています。地元住民からは、見知らぬ外国人が出入りすることへの不安が広がっており、引っ越す住民も出てきています。特に、長年その地域に住んでいた住民は、周囲の環境が変わってしまうことに対して懸念を抱いています。また、不動産業者は「中国人が物件を買いあさり、ミニバブルが起きている」と指摘しています。日本人が手をつけないような古い物件がリフォームされ、高騰している状況です。
移住の背景と今後の展望
移住する中国人が増える背景には、ゼロコロナ政策への反発や経済状況の悪化が影響しています。中国では「潤(ルン)」という隠語が広まり、海外移住を意味する言葉として使われています。発音が英語の「run」と同じであることから、「逃げる」という意味合いも含まれています。日本が人気を集める理由には、生活環境の良さや中国からの近さが挙げられますが、経営・管理ビザの取得要件が非常に緩いことも大きな要因です。
海外移住コンサルティング会社の大森健史社長は、経営・管理ビザの資本金500万円は「格安」と評価しています。アメリカの同様のビザ取得には数千万円の投資が必要であるため、日本のビザ制度は非常に魅力的です。大森氏によると、米国の同様のビザ(投資駐在員ビザ)を取得するには、20万~30万ドル(約3000万~4500万円)程度の投資が必要とされ、永住するには最低80万ドル(約1億2000万円)以上の投資が求められるという。
中国人移住者の実態と社会的影響
移住した中国人の中には、経営・管理ビザを取得して日本でのビジネスを展開するだけでなく、他の業種にも進出しているケースが見られます。例えば、貿易業やECサイト運営なども人気の分野です。2023年6月に大阪に移住した許健さん(仮名)は、経営・管理ビザで中国人に日本の不動産会社などを紹介するコンサルタント業を営んでいます。彼は、中国の「ゼロコロナ政策」への疑問から移住を決意し、友人の助けを借りてスムーズにビザを取得しました。
許さんは「中国は経済状況も悪化している。移住は今後さらに進むだろう」と話しており、移住の流れは今後も続くと予想されています。特に、経営・管理ビザを利用した移住は、今後も増加する見込みであり、日本社会との摩擦が生じる可能性もあるため、注意が必要です。
日本社会との摩擦と今後の課題
松村教授は、「経営・管理ビザは日本で事業を行う外国人のための在留資格であるが、移住の手段として安易に利用されている可能性がある」と警鐘を鳴らしています。移住者が増えることで、地域社会との摩擦が生じることが懸念されています。特に、民泊を含む事業の実態をしっかりとチェックする必要があると指摘しています。地域住民とのコミュニケーションを図り、相互理解を深めることが重要です。
また、移住者が日本の文化や法律に適応するための支援体制も求められています。言語の壁や文化の違いからくる誤解を解消するためには、地域社会が積極的に関与し、移住者との交流を促進することが必要です。これにより、移住者が地域に溶け込み、共生する社会を築くことができるでしょう。
結論
日本への移住を希望する中国人の増加は、経営・管理ビザの取得の容易さや日本の生活環境の魅力が影響しています。しかし、地域社会への影響や移住者の増加に伴う課題も存在するため、今後の動向に注目が必要です。移住者と地域住民が共に生活し、互いに理解し合うための取り組みが求められています。日本社会が多様性を受け入れ、共生の道を模索することが、今後の重要な課題となるでしょう。

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