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高市首相への“殺害示唆”投稿 外交トップの発言に波紋広がる
中国・薛剣(せつけん)駐大阪総領事が自身のX(旧Twitter)上で投稿した一文が、日中関係に新たな緊張をもたらしている。
薛氏は、朝日新聞デジタルが報じた「高市早苗首相、台湾有事『存立危機事態になりうる』」という記事に反応し、次のように書き込んだ。
「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟が出来ているのか」
この投稿は、外交官としてあるまじき暴力的な表現であり、高市首相への“殺害予告”と受け取られてもおかしくない内容だった。SNS上では瞬く間に拡散し、「国家間の侮辱」「公然たる脅迫」として批判が殺到。
投稿は9日までに削除されたが、薛氏はその後も複数回にわたり自身の主張を展開し、発言を撤回するどころか「日本側が歪曲している」と反論している。
外務省が中国側に正式抗議「極めて不適切な言動」
木原稔官房長官は10日の記者会見でこの件に言及し、「中国の在外公館の長による発言として極めて不適切と言わざるを得ない」と強い表現で批判。
「外務省および在中国大使館を通じて正式に抗議を行い、関連投稿の速やかな削除と説明を求めた」と明らかにした。
また、記者団の「国外退去を求める考えはあるか」との質問に対しては、「累次にわたって不適切な発言を確認しており、中国側に適切な対応を強く求めている」と述べ、今後の外交判断に含みを持たせた。
政府関係者によると、日本側は「脅迫に類する投稿を放置すれば、外交官による暴力的発言を容認した前例になる」としており、外務省は今後、中国外務省を通じて正式な説明要求を行う見通しだ。
中国の「戦狼外交」を象徴する存在 過去にも挑発的発言
薛剣氏は、中国外交の中でも強硬かつ挑発的な発言で知られる人物で、「戦狼外交(ウルフ・ウォリアー外交)」の代表格とされる。
2021年にも「台湾独立=戦争。はっきり言っておく、中国には妥協の余地ゼロ」と投稿し、波紋を呼んだ過去がある。
今回の問題では、「台湾有事を日本有事とみなす高市首相の発言こそ内政干渉だ」と主張し、「撤回と釈明を求める」と反発を続けている。
9日には一般ユーザーの投稿に対して「勝手な想像任せで拡大解釈と歪曲を止めてほしい」と返信し、
「日本側が『台湾有事は日本有事』と言い出した時点で、対話が成立しなくなってしまう」と持論を展開した。
さらに「台湾問題は中国の国家統一に関わる根幹的課題であり、他国からの干渉は到底受け入れられない」と主張し、「平和的統一の努力は続けるが、他国の妨害は容認できない」と繰り返した。
高市首相の発言「台湾有事=存立危機事態」発言の背景
事の発端となったのは、高市早苗首相が7日の衆院予算委員会で行った答弁だ。
高市氏は台湾情勢を念頭に、「台湾有事が発生した場合、日本の平和と安全が著しく脅かされるおそれがあり、存立危機事態に該当する可能性がある」と答弁した。
これは、安保法制に基づく「集団的自衛権の行使」に関わる重要な発言であり、台湾有事を自国防衛の範疇に含めるという明確な立場を示したものだった。
この発言に対し、中国側は即座に反発。薛氏の投稿は、その政治的背景と強硬な立場を象徴するものとみられている。
外交関係者の間では、「個人の過激な意見というよりも、中央政府の意向を反映している可能性がある」との見方も出ており、今後の日中外交の焦点になりつつある。
「ひろゆき」氏も苦言「遺憾だけで済ませるのか」
実業家の西村博之(ひろゆき)氏も10日、自身のXでこの問題に反応。
「中国政府から派遣された総領事が首相の首を斬ると殺害予告。これを許すとエスカレートする」と投稿し、
「それでも『遺憾』を表明するだけなのかな?」と日本政府の対応を疑問視した。
ネット上では「外交官が暗殺を示唆するなど前代未聞」「国外退去処分にすべき」「脅迫罪にあたるのでは」といった厳しい意見が相次いでいる。
一方で、中国国内では薛氏を支持する意見も見られ、「国の立場を代弁しただけ」と擁護する投稿も散見されている。
今後の日中関係への影響は? 専門家「緊張の長期化も」
外交専門家の間では、今回の件が日中関係に長期的な影響を及ぼす可能性が指摘されている。
国際政治学者の一人は、「中国の外交官が日本の首相を名指しで脅す発言をしたのは極めて異例。国内向けのパフォーマンスであっても、結果的に両国関係を冷え込ませる」と分析。
さらに、「台湾情勢をめぐる緊張が続く中で、この発言が中国政府の立場を反映していると受け止められれば、政治的摩擦は避けられない」と警鐘を鳴らす。
日本政府は今後、中国側の正式な説明と再発防止策を求める方針だが、中国がどのような形で応じるかは不透明だ。
外交儀礼の観点からも、在外公館の長による発言として看過できないとして、外務省内部では「再度の発言があれば、ペルソナ・ノン・グラータ(外交官追放)の措置も検討せざるを得ない」との声も上がっている。
SNS時代の外交が問う“言葉の重さ”
SNSが国際政治の最前線となる現代において、外交官の一言が国家間の信頼を左右する時代になっている。
今回の薛剣総領事の投稿は、その象徴的な事例だ。
暴力的な言葉は瞬時に拡散し、意図を超えて国家のメッセージと受け取られる。
その結果、外交の場では「言葉の軽さ」が最も重い問題として突きつけられている。
高市首相の発言、薛氏の投稿、そして日本政府の対応――。
それぞれの言葉が今後の東アジア情勢と日中関係をどう変えるのか、世界が注視している。

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