米航空宇宙局(NASA)は9月10日、火星探査車「パーシビアランス」が昨年7月に採取した岩石を詳細に分析した結果、生命の存在を示唆する可能性のある有機物や鉱物が発見されたと発表しました。今回の成果は英科学誌「ネイチャー」に掲載され、世界中の科学者から注目を集めています。火星探査ではこれまでも生命の痕跡をうかがわせる発見がありましたが、今回の分析は従来よりも明確で、NASAのダフィー長官代行は「これまでで最も生命の兆候に近い結果」と強調しました。火星探査が本格化してから数十年、ようやく「生命の存在を裏づける手掛かり」に迫っているという期待が高まっています。
ヒョウ柄のような斑点に微生物活動の痕跡か

発見された岩石は、火星北半球に位置する「ジェゼロ・クレーター」の乾いた川底や湖跡から採取されました。岩石の表面には数ミリ単位の小さな斑点が無数に散在し、まるでヒョウ柄のような模様を形成していました。探査車のX線・紫外線分析装置による調査で、これらの斑点には鉄、硫黄、リン酸塩、さらには有機物が含まれていることが判明しました。地球上では、このような鉱物や有機化合物は、微生物の代謝や活動の痕跡として認識されることが多く、火星でも同様の生命活動が行われていた可能性が指摘されています。岩石に残された「生命の痕跡らしき模様」が、火星における古代生命の存在を裏付けるのではないかという大きな関心を呼んでいます。
微生物の代謝に必要なエネルギー源を含有

今回確認された鉱物や化合物は、単なる岩石の成分以上の意味を持ちます。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のヒューロウイッツ准教授によれば、硫化鉄やリン酸塩といった物質の組み合わせは、微生物にとって代謝のエネルギー源となりうる重要な要素だといいます。地球上では、こうした鉱物は微生物が有機物を分解した際に副産物として形成される場合が多く、今回の火星岩石に見られた組成は「生命活動と無関係ではない」と考えられています。特にリンや硫黄は生命活動の基本的なサイクルに欠かせない元素であり、火星においても微生物が数十億年前に活動していた可能性を強く示唆しているのです。
「生命そのものではない」 NASAは慎重姿勢

とはいえ、今回の発見をもって「火星に生命が存在した」と断定することはできません。NASAは記者会見で「見つかったのは生命そのものではなく、あくまで生命の痕跡を示す可能性にすぎない」と慎重な姿勢を崩していません。実際、鉄や硫黄を含む鉱物は、生命活動を伴わなくても、高温や酸化還元反応といった特殊な地質条件で自然に形成されることがあります。そのため、今回の発見は**「生命活動によるもの」か「非生物学的な地質作用によるもの」かを切り分ける必要がある**のです。NASAが2021年に発表した「地球外生命痕跡の信頼性を評価する7段階基準」に照らせば、今回の成果は最初の段階である「痕跡の可能性」に相当するとされ、今後の追加分析が不可欠とされています。
地球での高度分析へ サンプルリターン計画に課題も

最終的に火星に生命が存在していたかどうかを確認するには、火星から持ち帰った岩石試料を地球上で高度な研究機器にかけ、徹底的な分析を行う必要があります。NASAと欧州宇宙機関(ESA)は、2030年代を目標に火星からのサンプルリターン計画を進めています。実現すれば、これまで火星探査車の簡易分析では不可能だったレベルの化学分析や分子レベルの観察が可能となり、生命の存在を裏付ける決定的な証拠が得られるかもしれません。しかし一方で、米国内では予算削減の影響から計画の中止や縮小が議論されており、実際に地球での分析が行えるかは不透明です。火星生命探査の行方は、今後の国際協力や政治的判断にも大きく左右されるとみられます。

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