九州初のイスラム教土葬墓地計画と地域の反発
大分県日出町で計画されていたイスラム教徒向け 大規模土葬墓地 が、地域住民との意見対立により事実上中止となった。九州地方ではイスラム教徒の土葬墓地は存在せず、別府市の宗教法人が日出町町有地に建設計画を進めていた。
計画発表当初から、近隣住民や区長会では 地下水や農業用水への影響、衛生面の懸念 が強く示され、署名活動や陳情が繰り返された。さらに、日出町の裁量で進められた計画に対し、隣接する杵築市との十分な協議がなかったことも問題視された。
昨年8月の町長選では、墓地建設反対を訴える候補が当選し、町は町有地の売却を行わない方針を決定したことで、計画は事実上頓挫した。
杵築市議団が国に提出した異例の要望書
こうした地域の混乱を受け、杵築市の自民党市議団は今月18日、国に対し 「全国で土葬に対応可能な墓地を整備すべき」 との異例の要望書を提出した。
要望書の提出には、地元選出の岩屋毅前外相も尽力し、厚生労働省の仁木博文副大臣、自民党の小林鷹之政調会長、内閣府の鈴木隼人副大臣に直接手渡された。
要望書では以下の4点を求めている。
- 国の責任において、宗教的多様性に対応した墓地整備の基本方針を策定
- 全国に複数の土葬対応可能な墓地を国が確保・整備
- 埋葬が周辺環境に与える影響(水質・衛生など)を科学的に検証し、全国共通のガイドライン作成
- 墓地計画時には住民への丁寧な説明と理解促進を行い、自治体への支援を国が実施
阿部長夫県議(自民党大分県連杵築支部長)は、「外国人受け入れ政策を進める以上、人生の最終段階も国が責任を持ち、それぞれの宗教に沿った埋葬環境を整備する必要がある」と説明した。
地域社会への影響と分断の実態
要望書は、日出町計画が地域社会に 大きな分断と不安 を生んだと指摘している。自治体間の協議不足や独断的な計画進行が、住民間の対立を深刻化させた。
反対派住民からは「宗教的配慮は理解するが、地下水汚染や農作物への影響が心配」との声が根強く、地域社会の心理的負担も大きかった。
国の責任による土葬墓地整備の必要性
少子高齢化による労働力不足を背景に、国は 外国人受け入れ政策 を積極的に推進している。しかし、受け入れ政策だけでは、イスラム教徒を含む外国人が 日本で生活し、人生の最終段階を迎える環境 を整える責任は不十分とされる。
要望書では、「地方自治体や住民だけに負担を押し付けず、国が責任を持った制度設計を早急に行う必要がある」と強調している。
厚生労働省は、墓地に関する指導監督は自治体が行う「自治事務」であると説明。また、平成12年に策定した「墓地経営・管理の指針」では、墓地設置の際に周辺の生活環境との調和を考慮することを求めている。
今後の課題と展望
今回のケースは、 宗教的多様性に配慮した墓地整備 と 地域社会の理解促進 の両立が課題であることを浮き彫りにした。
国が主導して全国規模で土葬対応墓地を整備すれば、イスラム教徒のみならず多文化共生社会の推進にもつながる。一方で、地域住民の不安や反発を解消するための丁寧な説明や科学的検証も不可欠である。

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