留学生・技能実習生の失踪と不法滞在問題の実態 ― 統計で読み解く日本の構造的課題

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外国人在留者・留学生・技能実習生の急増が生む
「母数拡大型リスク構造」

日本における外国人人口は、ここ数年で大きく構造が変わった。2024年末時点の在留外国人数は約376.9万人、2025年には約395万人規模にまで拡大している。これは1990年代と比較するとほぼ倍近い水準であり、日本社会の中で外国人労働者・留学生が「周縁的存在」から「欠かせない労働インフラ」へと変化したことを意味している。

とくに増加が顕著なのが、技能実習生と留学生の二つのカテゴリーである。2023年末時点で技能実習生は約50万人を超え、その多くが製造業、建設業、農業、介護分野など、慢性的な人手不足業界に配置されている。また、留学生についてもJASSOの統計では2024年時点で約33.6万人に達し、コロナ禍以前のピークを上回った。

重要なのは、この「母数の拡大」が失踪や不法滞在のリスクを“割合”以上に増幅させている点だ。たとえ失踪率そのものが大きく変化していなくとも、母数が増えれば絶対数は増える。かつて年間数百人規模だった問題が、現在では数千人単位で発生しうる構造へ変化している。この状況は単なる「管理の問題」ではなく、日本の労働構造そのものが内包する歪みの表出といえる。

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技能実習生の失踪問題
最新統計が示す「制度からの離脱」の実像

技能実習生の失踪は、単なる行方不明というより、「制度からの離脱」と捉える方が実態に近い。2023年に公表されたデータでは、技能実習生全体約50.9万人のうち9,753人が「失踪」として報告された。この数字は過去最高水準であり、単年で1万人近い実習生が雇用先や監理団体から姿を消した計算になる。

失踪の背景として最も多く指摘されるのは、長時間労働、賃金不払い、パワハラ・暴力、過剰な借金、違約金契約などの労働環境の問題だ。多くの実習生は来日前に母国でブローカーへ多額の手数料を支払い、借金を背負った状態で来日している。そのため、「逃げれば不法滞在になる」と理解していても、現状の労働環境に耐えきれず、逃走という選択に追い込まれるケースが後を絶たない。

さらに深刻なのは、失踪後の行き先である。多くは非正規の建設現場、農業、解体作業、深夜の工場、飲食店の裏方、清掃業務などに潜り込み、いわゆる「地下労働市場」に吸収されていく。ここでは最低賃金の保証もなく、労災も適用されず、暴力的な搾取構造に巻き込まれるリスクが高い。つまり、この問題は単なる統計上の数字ではなく、「人身搾取の温床」とも密接に結びついている社会問題なのである。

留学生の失踪・資格喪失の現実と
「労働移行型不法滞在」の拡大

技能実習生ほど明確な「失踪統計」は存在しないものの、留学生の資格喪失から不法滞在に移行するケースも年々増えている。2024年時点で日本に在留する留学生は約33.6万人。そのうち相当数が生活費や学費を賄うためアルバイトに依存しており、就労目的が実質的な来日動機になっているケースも少なくない。

留学生の場合、「失踪」という形ではなく、在籍校を除籍・退学になった後も在留資格を更新せず、そのまま国内に滞在し続けるケースが多い。いわば「静かなる失踪」ともいえる状態だ。さらに悪質なケースでは、実体のない日本語学校やブローカーが「留学ビザを使った労働斡旋」を行い、最初から不法就労を前提に来日するスキームも確認されている。

統計的には、こうした留学生由来の不法滞在者は「不法残留者」の枠組みの中に吸収されて集計される。直接的に「元留学生」と明記されることは少ないが、資格外活動違反やオーバーステイで摘発される層の中に、相当数の元留学生が含まれていると考えられている。これは教育制度の問題であると同時に、労働市場の問題でもあり、もはや「留学」という枠だけでは捉えきれない労働移民構造の一部となっている。

不法滞在者数の推移
日本社会に潜在する“見えざる人口層”

不法滞在の実態を示す最も重要な数値は、出入国在留管理庁が発表する「不法残留者数」だ。最新の公表データでは、2024年1月1日時点で79,113人、2024年7月1日時点で77,935人、2025年1月時点では74,863人、2025年7月時点では71,229人と報告されている。

一見すると減少傾向にも見えるが、これは「問題が解消している」ことを意味しない。取り締まり強化や一斉摘発により一時的に数字が減少しているにすぎず、新規の不法滞在者の流入と摘発・送還が常に同時進行している状態である。むしろ注目すべきは、数万人規模の不法滞在者が“構造的に常在している”という事実だ。

さらに問題なのは、この数字が「把握できた人数」に過ぎない点である。住所不定者、偽名利用者、地下ネットワークに保護されている者などは統計に反映されにくく、実数はさらに多い可能性があると多くの研究者が指摘している。不法滞在はもはや例外的な現象ではなく、日本社会の中に恒常的に存在する「影の労働人口」と化しているのである。

強制送還・摘発データが語る現場の緊張と制度疲労

2023年の統計では、入管法違反による退去強制手続き対象者は18,198人に達し、実際に強制送還された人数は8,024人と報告されている。違反理由の大半はオーバーステイや不法就労であり、単なる書類不備ではなく「制度逸脱型の滞在」が主因となっていることが分かる。

これらの数字が示しているのは、入管行政の現場が恒常的な緊張状態にあるという現実だ。失踪者、不法滞在者、ブローカー、偽装就労先などを追う一方で、人手や予算には限界があり、すべてを網羅的に管理することは極めて困難になっている。いわば「制度を維持する側」と「制度の外で生きる側」のいたちごっこが常態化している状態である。

この構図は、単なる治安問題ではなく、国家の制度設計そのものが現実に追いついていないことを示すシグナルでもある。労働力確保を優先すれば管理は緩む。しかし管理を厳格化すれば、合法的な人材受け入れ自体が細ってしまう。このジレンマの中で、日本はまだ明確な戦略的回答を出せていない。

結論
失踪・不法滞在は「個人問題」ではなく国家構造の問題である

ここまで見てきたデータは、留学生や技能実習生の失踪、不法滞在が一部のモラルの問題ではなく、日本の労働政策、教育制度、入管行政、経済構造が複雑に絡み合った「国家構造レベルの課題」であることを示している。

数万人規模の不法滞在者、年間1万人規模の実習生失踪、過去最多水準の留学生数。これらはバラバラの問題ではなく、同じ線上にある現象だ。安価な労働力への依存、制度の名目と現場の実態の乖離、監督体制の限界、そして可視化されない人々の存在。

問題を「治安対策」や「行政の怠慢」だけに矮小化すれば、本質は見えなくなる。本来問われるべきなのは、日本社会がどのような社会モデルを目指すのかという点にある。使い捨て型の外国人労働に依存し続けるのか。それとも、共生と透明性を前提とした新たな受け入れモデルを構築するのか。

失踪、不法滞在という現象は、その選択を迫る警告でもある。日本はすでに、その分岐点に立たされている。

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参考データURL(公式・統計):
本邦における不法残留者数について(令和7年7月1日現在) | 出入国在留管理庁

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