フランス政府は、中国発のファストファッション大手 SHEIN(シーイン) に対し、重大な法令違反の疑いがあるとして、オンライン販売の停止手続きを開始した。
財務省が発表した声明によれば、SHEINのウェブサイト上で児童に酷似した性人形や武器類が販売されていたことが確認され、当局はこれを「公共秩序と児童保護に対する重大な脅威」と認定。
政府はSHEINに対し、48時間以内に全ての違法商品を削除し、改善措置を報告するよう命令した。これに従わなければ、フランス国内から同サイトへのアクセスを遮断する方針を明確にしている。
一方で、内務省も司法当局を通じて「サイト閉鎖命令」の可能性を検討しており、行政と司法の双方が動く異例の事態となった。
目次
問題となった商品と調査結果の詳細
調査を行ったのは、フランスの消費者保護監督機関 DGCCRF(競争・消費・詐欺抑制総局)。
DGCCRFの報告によれば、SHEINのマーケットプレイス上で販売されていた商品には、次のような問題があったとされる。
- 児童を模したとみられる性人形
外見的に明らかに未成年を想起させる造形が施されており、髪型や衣装、顔立ちが「子どもらしい」印象を与えるものであった。説明文にも「スクールガール」「ロリタイプ」などの表現が含まれており、児童ポルノ関連法に抵触する可能性があると判断された。 - 武器に分類される商品群
刃渡りの長いナイフ、スタンナックル(拳鉄)、斧、催涙スプレーなどが出品されており、フランスの武器規制法(Code de la sécurité intérieure)に違反する可能性が指摘された。
特に「装飾品」として販売されていた一部の刃物類が、実際には使用可能な状態であったことも確認されている。
DGCCRFはこれらの出品を「SHEINが自社管理下で運営するプラットフォーム上に存在していた」と強調し、監督責任の不備を厳しく批判した。
SHEINの対応と声明
SHEINはこの指摘を受け、問題となったカテゴリーの商品を即時に削除したと発表。
同社は声明で以下のように述べている。
「不適切な商品が当社プラットフォームに掲載されたことを深く遺憾に思います。第三者出品者による違反行為であり、確認次第すべて削除しました。今後はAIによる自動検知と人手による審査を強化し、再発を防止します。」
さらにSHEINは、全世界で「性人形」カテゴリーを完全廃止すると同時に、第三者販売者の登録基準を見直すと発表。
ただし、フランス当局は「削除後も類似商品の再出品が確認された」として、監視を続ける構えを見せている。
今回の対応を「企業による一時的な火消しに過ぎない」と批判する声も根強い。
欧州で進む「デジタルプラットフォーム監視強化」
フランスの動きは、欧州連合(EU)が2024年に施行した**デジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)**に基づく新たな執行例とみられている。
この法律は、違法コンテンツや有害商品の販売を放置したオンラインプラットフォームに対し、**即時削除命令や制裁金(最大で世界売上の6%)**を科すことを可能にしている。
SHEINのような巨大越境EC企業は、出品の多くを第三者に委ねているため、監視体制の不備が常に問題視されてきた。
欧州委員会は、今回のフランスの措置を「DSAの理念を体現した迅速な対応」と評価しており、今後は他国でも同様の監査が強化される見通しだ。
世界各国で続くSHEINの批判
SHEINは低価格・トレンド追随型のビジネスモデルで急成長を遂げたが、その裏側では数々の問題が指摘されている。
- 米国では、デザイン盗用や著作権侵害の訴訟が相次ぎ、「大量生産・大量廃棄による環境破壊」が議会で取り上げられた。
- 英国では、輸入時の税務処理が不透明であるとして会計監査機関が調査を開始。
- ドイツ・ブラジルなどでは、衣料品から高濃度の有害化学物質が検出され、行政当局が販売停止を命じた事例もある。
- カナダでは、SNS上で「SHEIN労働者の実態」と題した内部告発動画が拡散し、労働環境への批判が再燃している。
こうした問題を背景に、欧州ではSHEINに対する倫理的ボイコット運動が拡大しており、環境・人権・児童保護の観点から規制を求める声が高まっている。
パリでの抗議デモと市民の反応
今回の事件は、SHEINがパリ中心部のBHV百貨店内に初の実店舗を開設した直後に発覚した。
開店当日には、環境保護団体や児童保護団体が店舗前に集まり、**「Protect children, not Shein(子どもを守れ、SHEINを守るな)」**と書かれたプラカードを掲げて抗議した。
活動家のアルノー・ガライ氏はメディアの取材に対し、
「SHEINは安さの裏で倫理を犠牲にしている。今回の事件は氷山の一角に過ぎない。企業の透明性を求めるべきだ」
と述べた。
SNS上でも「#BoycottShein」や「#StopChildDolls」といったハッシュタグがトレンド入りし、市民の怒りが可視化された。
今後の展開と国際的な影響
SHEINはすでにフランス政府に改善報告書を提出しており、当局は報告内容の正当性と実効性を検証している。
削除が不十分と判断されれば、フランス国内からのアクセス遮断が現実化する可能性が高い。
専門家の間では、今回の事件がEU全域での越境EC規制強化の引き金になるとの見方が強い。
オンライン販売の自由化が進む一方で、倫理・安全性の管理を怠れば、国家がサイト遮断という「最終手段」に踏み切る可能性があることを示したからだ。
グローバル企業の責任と限界
今回の一件は、SHEINだけの問題ではない。
AIとサプライチェーンを駆使した超高速生産モデルが、消費者の利便性と引き換えに「監視・倫理・透明性」を犠牲にしている現実を浮き彫りにした。
フランス政府の動きは、オンライン市場の健全化と企業倫理の再定義を迫る転機となりうる。
今後、他の国々でも同様の監査・停止措置が連鎖すれば、グローバルECの在り方そのものが問われることになるだろう。

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