NECは2026年8月1日付で、AIエージェントだけで構成される「コーポレートAI・ワークフォース部門」を立ち上げた。人事や法務などと同列のコーポレート部門内に位置づけられたこの部署には、人間が1人も在籍しておらず、17人のAIエージェントだけが所属する異例の組織だ。
複数のAIエージェントが司令塔に
この部署では、自律的に業務を遂行する複数のAIエージェントが司令塔となり、全社の業務自動化を先導する体制を取る。AIを「便利なツール」として使うのではなく、「組織の一員」として組織図に載せる発想の転換が特徴だ。部門長、役員、マネージャー、実働部隊という4階層を持ち、それぞれに役職と名前が与えられ、上司役のAIが部下役のAIを評価する構造になっている。
「ワークフォース」という名称が示す意味
部署名に含まれる「ワークフォース」は、日本語では「労働力」や「従業員の総体」を意味する。人事の世界で「ワークフォース・プランニング」といえば要員計画を指すことから、この部門名は「AIという労働力を全社レベルで計画的に運用する部門」と宣言しているに等しい。もし「AI推進室」や「生成AI活用センター」といった名称だったら、AIを推進する主体としての人間が前提となるが、「AI・ワークフォース」という言葉はAIそのものが労働力の構成要素であることを前提にしている。
コーポレート部門に置いた狙い
配置されたのはコーポレート部門の内部だ。コーポレート部門とは、事業部門を横串で支える本社機能を指し、人事、法務、経理、IT、サイバーセキュリティーといった全社の共通基盤を担う組織である。ここに置かれたことは、AI部署が特定の事業のためのものではなく、全社を対象とした共通機能として設計されていることを示している。事業部門の中に置けばその事業の効率化にとどまるが、コーポレート部門に置いたのは全社のAI運用ノウハウを1カ所に集約する意図があるからだ。
第1弾の業務と今後の展開
第1弾の業務は役員会議に使う全社の経営分析資料の作成で、今後は営業戦略立案のための顧客データ分析などへ広げていく計画だ。他部署から自動化の依頼を受けてエージェントを生成する社内受託モデルを取り、全社のAI運用ノウハウを1カ所に集約する。
人間とAIの役割分担
この取り組みは、人間とAIの業務分担を明確にして生産性を高める試みでもある。一般的に、AIは大量のデータを高速で処理しパターンを認識する能力に優れており、定型的な問い合わせへの自動応答やデータ入力・分類、予測分析などの業務で強みを発揮する。一方、人間が担うべきなのは優先順位判断、リスク判断、価値判断、例外対応、意味づけ、最終決定といった領域だ。NECの新部署では、AIエージェントの側が業務を保有し意思決定のプロセスを回し、人間はその成果とリスクの報告を受けて最終判断を下す構造になっている。
組織図にAIが載る時代へ
NECが選んだのは、AIを技術として導入するのではなく、組織として実装するという道だ。役職を与え、名前を付け、階層を作り、報告のラインを引く。それは人間の組織の模倣に見えて、実は人間の組織とAIを接続するための翻訳作業でもある。組織図にAIが載るという1点だけを取っても、企業のあり方についての前提が1つ書き換わったといえる。2026年8月1日は「AIが従業員になった日」として記憶されるかもしれない。
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