2025年12月上旬、日本の治安当局を揺るがす重大事件が報じられた。中国から日本国内へ 拳銃24丁を密輸した疑いで、中国籍の男(46)が逮捕 された。航空貨物を利用して、複数回にわたり実弾発射可能な拳銃を日本へ送り込んでいたという。事件は速報として多くのニュースで伝えられたが、実はこれだけではない。
ここ数年、日本国内では “おもちゃ”と称して販売される中国製拳銃が実は真正銃だった という事案が相次ぎ、すでに全国で1,000丁を超える危険製品が押収・回収されている。地方都市のクレーンゲーム機に景品として置かれ、通販サイトでは「モデルガン」「キーホルダー」「オモチャ」として大量販売され、知らぬ間に日本中に広がっていた。
今回の密輸事件は、その氷山の一角にすぎない。本稿では、最近発覚した複数の密輸・所持事件、背景にある中国製おもちゃ拳銃の正体、そして社会に蔓延する危険な構造を徹底的に掘り下げる。
👉注釈銃砲刀剣類所持等取締法 〔第3版〕 (辻 義之 (読み手), 大塚 尚 (著))
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24丁密輸
― 裏に潜む“異常な供給源” ―
2025年12月2日。宮城県警を中心とする合同捜査本部が、中国人の支逸峰容疑者(46)を逮捕した。容疑は、中国から上下二連の拳銃24丁を密輸した銃刀法違反(加重所持・密輸) だ。
捜査によれば、支容疑者は東京都内の男らと共謀し、2024年5月〜10月にかけて複数回にわたり航空貨物に銃を紛れ込ませ、国際空港を経由して日本国内へ送り込んだ。梱包は巧妙で、玩具や模型部品などの名目で申告していた可能性がある。
押収された24丁はいずれも中国製の小型拳銃で、外見は玩具に近いが内部構造は実銃。警察の鑑定では、実弾の発射が可能で、殺傷能力も高いことが確認された。
この事件が大きく報じられたのは、「24丁」という量の多さもあるが、それ以上に、「同じ構造の銃がすでに全国に流れている」ことが捜査から浮上していたためである。今回の事件は、全国で問題化している“偽装玩具銃”問題の中心に位置している。
全国で相次ぐ類似事件
― 密輸、所持、景品、通販…広がる経路 ―
以下は、2023〜2025年に確認された“おもちゃ拳銃”関連の代表的事件だ。
2025年9月:埼玉・越谷市 ― 国際郵便で拳銃輸入
越谷市の53歳男性が、中国から回転弾倉式の拳銃を輸入したとして書類送検された。
本人は「玩具だと思っていた」と供述。しかし鑑定では 金属製発射機構を持つ真正拳銃 と判明した。
2025年11月:埼玉・草加市 ― “玩具銃2丁”所持で書類送検
草加市の会社員(35)が、「プラスチックのおもちゃ」と信じて輸入した2丁の銃が、実際には実弾を撃てるもので、銃刀法違反として書類送検された。
2025年夏〜秋:静岡・鹿児島など ― クレーンゲーム景品から拳銃続々
静岡県では、ゲームセンターのクレーンゲーム景品として流通していた「ミニリボルバー玩具」が、鑑定の結果、実弾発射機能を有する真正銃 と判明。県警は緊急に回収を呼びかけた。
鹿児島県でも同様の“リアルギミックミニリボルバー”が多数確認され、150丁以上が県内に流通していた可能性 が指摘された。
2025年:警察庁、16モデルを「真正銃」と公式認定
警察庁は中国製の“おもちゃ拳銃”のうち、以下の特徴を持つ16モデルを真正銃と認定した。
- プラスチック製外装
- 金属製の銃身・撃針
- 薄いが耐圧性のある薬室構造
- 火薬式弾丸の発射が可能
- 分解容易で、部品交換・改造で性能向上も可能
これらは「見た目の軽さや外観から玩具のように見える」が、内部には完全に実弾発射を想定した構造が組み込まれている。
全国で押収・回収された数は 1,100丁以上。これは公式に確認された数であり、未回収の製品を含めると数千丁規模とみられる。
なぜ“おもちゃ”に本物の構造が?
中国製拳銃の実態
ここで疑問が生まれる。なぜ玩具の外見を持つ銃に、実弾発射が可能な構造が組み込まれているのか?
1. 中国国内の“模造銃市場”の特殊性
中国国内では、コレクション目的の金属製モデルガンやリアルギミック玩具が盛んに製造されている。
しかし、法規制の違いから、「撃針部分が実際に金属」「薬室も金属パーツ」という構造がそのまま販売されることもある。
2. 製造コスト削減の結果として“実銃に近い構造”が残った
多くのモデルでは、製造の効率化から 金属部品を実銃と同じ構造で作るほうが安い。
そのため見た目は玩具でも、内部構造はほぼ実銃と変わらないことがある。
3. 海外に出回る際に“おもちゃ”と偽装
国際物流では、銃器は厳しくチェックされる。
だが「玩具」「模型」「キーホルダー」として申告されることで、通関をすり抜けるケースが多発していた。
日本側の“盲点”と密輸ルートの巧妙さ
今回の24丁密輸事件を含む複数の事件は、以下の“盲点”を突かれた形だ。
① 航空貨物・国際郵便の偽装
中身がプラスチック製で軽く、外箱も玩具のようであるため、検査強度が低い貨物スキャンを通過することがある。
② 通販・オークション・景品へのすり替え
輸入量が多かったため、
- ゲームセンター
- ネットショップ
- 個人EC
- 海外通販(AliExpress 等)
に混入した。
購入者も出品者も、違法性を知らないケースが多い。
③ 小型化による“見抜けない危険性”
ミニリボルバー型などは、本当にキーホルダーサイズのものもあり、外見では危険性を判断できない。
危険は“いつでも手の届く場所”にあった
SNS上では、以下のような声が相次いでいる。
- 「通販で普通に買えるのが怖すぎる」
- 「息子がクレーンゲームで取ってきた物が実銃だったかもしれないのか…」
- 「知らずに所持してただけで逮捕とか、法律のギャップが危険」
実際に、これら“おもちゃ銃”の事故例も報告されている。
火薬式弾丸を装填して誤発射するケースや、興味本位の分解で指を負傷する事案もある。
さらに懸念されるのが 犯罪転用 だ。
手軽に入手できる本物の拳銃が、暴力団や違法組織のブラックマーケットに流れれば、日本の治安が根本から揺らぐ。
法の壁と一般人への“誤認逮捕”リスク
銃刀法は非常に厳しく、以下の場合でも容赦なく摘発される。
- 持っている人が“玩具だと思っていた”
- 海外サイトで合法だと表示されていた
- 景品として手に入れた
- 他人からもらった
たとえ善意でも、「実弾発射可能」と判断されれば 所持した時点でアウト となる。
そのため、警察は「見つけたらすぐ通報を」「不用意に触らないで」と強く呼びかけている。
専門家が語る
― “日本社会の隙”を突かれた事件 ―
銃器犯罪の研究者や元捜査官は、今回の一連の流通を以下のように分析している。
- 「日本は銃規制が強いがゆえに、玩具と本物の区別を一般人が判断できない」
- 「税関は本物の金属製拳銃の摘発には強いが、玩具の外観に偽装された銃には弱い」
- 「中国側の製造業者は銃規制に関する国際ルールの理解が薄く、“おもちゃ”として海外に出してしまう」
この構造を放置すれば、今後さらに危険が増すと警告している。
問題はどこへ向かうのか ? 対策と課題
日本政府は以下の対応を検討・実施している。
1. 税関検査の強化
スキャン画像からプラスチック外装でも識別できるAI導入を進めている。
2. ネット通販サイトへの規制強化
国内外のECプラットフォームに対し、「銃器類の疑いがある商品を禁止」と要請。
3. クレーンゲーム景品の事前審査
物販・景品として流れる製品の監視体制を強化。
4. 一般市民向けの警告
警察庁は「おもちゃとして売られていても本物の可能性がある」と警告を出し、回収フォームを開設。
しかし、海外ECの隆盛、物流の効率化、ゲームセンターの多様化などを踏まえると、対策は“まだ追いついていない”と言わざるを得ない。
結論 ― これは“密輸事件”ではなく社会問題だ
今今回の「24丁密輸事件」は、単なる拳銃密輸の摘発ではなく、“おもちゃ”として流通していた銃が、実際には真正拳銃であり、全国に拡散していたという構造的な問題 を明らかにした。
銃は密輸ルートだけでなく、
- ネット通販
- クレーンゲーム景品
- 観光地の景品流通
- フリマ・リサイクル市場
など多岐にわたる経路で流通していた。所持者の多くが違法性を認識していなかった可能性が高く、押収は千丁越え、回収対象は万丁規模に達する。未回収の銃が多数存在するとみられ、誤発射事故や犯罪転用のリスクが残っている。
こうした状況は、銃器の監視体制や流通管理の課題を浮き彫りにし、制度面・規制面・流通の透明性の観点から、社会全体で問題を捉える必要性を示している。
私たちは「銃器犯罪」とは別の形で、銃による危険を再び身近なものとして迎えてしまっている。これは単なるニュースではない。現代日本が直面する社会的な銃器流通問題であり、制度、規制、教育、市民意識のすべてを含めた総合的な対応が求められている。
👉注釈銃砲刀剣類所持等取締法 〔第3版〕 (辻 義之 (読み手), 大塚 尚 (著))

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