― ビットコイン戦略とクリプト提携に賭ける“Truth Social”の正念場 ―
トランプ前大統領が率いるメディア企業「トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)」が公表した最新決算は、市場の予想を裏切る厳しい内容となった。
2025年第3四半期(9月30日まで)の純損失は5480万ドル(約84億円)に達し、売上高はわずか97万3000ドル(約1.4億円)。これで3四半期連続の赤字だ。
■ 法務費用が経営を圧迫、「SPAC史上最長級」のコスト
最大の要因は、特別買収目的会社(SPAC)との合併に関する法務費用である。
TMTGは今回の報告で、**2,030万ドル(約31億円)**をこの関連コストとして計上。「SPAC取引史上最長級の手続き」と認め、多数の法的争いが発生したと説明している。
この合併は2024年に完了し、TMTGはナスダック上場を果たしたが、その過程で米証券取引委員会(SEC)との折衝、複数の訴訟対応などが発生。
本来、政治色の強いSNS「Truth Social」で成長を狙う同社にとって、法務対応コストは事業拡大を大きく阻む要素となった。
■ 仮想通貨資産の変動が損益を揺らす
同社の財務には、暗号資産市場の影響が色濃く反映されている。
報告によれば、保有するビットコインの評価額が**4,800万ドル(約73億円)減少。一方で、仮想通貨クロノス(CRO)の運用で3,300万ドル(約50億円)**の利益を得たことで、一部の損失を相殺した。
TMTGは今年に入り、積極的にビットコイン運用を拡大しており、保有数は15,000BTCに達する。
これにより同社は総資産31億ドルを確保しているが、ビットコイン相場の下落により含み損を抱えるリスクも高まっている。フォーブスの分析では、第4四半期もさらなる下落が続く可能性が指摘されている。
■ 「Truth Social」依存からの脱却へ
TMTGの主力事業は、トランプ氏の個人ブランドを支えるSNS「Truth Social」だ。
しかし、利用者数・広告収入ともに伸び悩んでおり、SNS単体での黒字化は遠い。
今回の決算でも、プラットフォーム収益は全体のごく一部に留まっている。
同社はこうした状況を打破するため、クリプトドットコムとの提携を強化。
2025年第3四半期には、6億8,400万CRO(約1億ドル相当)を取得した。購入には5,000万ドルの現金と4,700万ドル分の普通株式が充てられた。
この提携を通じて、TMTGは新しい収益源となる**予測市場サービス「Truth Predict」**を開始。政治イベントや経済指標に関する予測をユーザー同士がトークンで取引する仕組みだ。
クリプトドットコムが技術支援を行い、CROトークンを活用して市場を運営している。
■ ビットコイン戦略は成功か、それとも賭けか
TMTGは第3四半期において、ビットコイン関連で1,530万ドル(約23億円)のオプション収入を得たと発表。
これにより2四半期連続で営業キャッシュフローが黒字化し、CEOのデビン・ヌネス氏は声明で次のように強調している。
「ビットコイン資産が収益を生み、我々は株主に長期的な価値をもたらす資産取得の準備が整った」
しかし市場の見方は分かれている。
暗号資産は依然として価格変動が激しく、トランプメディアの経営がビットコイン価格次第で揺らぐリスクを抱える。
実際、TMTGの株価は発表当日の7日、13.1ドルで取引を終了し、年初来で62%以上下落している。
■ トランプ再選戦略との関係
TMTGの経営は、トランプ氏の政治活動とも密接に関わる。
Truth Socialは選挙戦における発信拠点であり、トランプ氏自身のブランド力がそのまま企業価値と直結している。
一方で、政界の動きに左右されやすいリスクもある。
再選キャンペーンの盛り上がり次第でTruth Socialのトラフィックが増減し、株価にも影響する構造だ。
投資家の間では「TMTGは政治的ヘッジファンドのような存在」と評されることもある。
■ 投資家の期待と現実
上場後、TMTG株は「トランプ銘柄」として個人投資家の注目を集めた。
だが、売上高の伸び悩みと赤字の継続が続き、投資家離れが顕著になっている。
SNS事業・クリプト資産・政治ブランドの三本柱が複雑に絡み合う同社は、ビジネスモデルの再構築を迫られている。
とはいえ、トランプ陣営が掲げる「独自の経済圏」を支えるプラットフォームとしては、依然として戦略的価値が高い。
もしTruth Predictが安定的な取引量を確保できれば、暗号資産経済圏における政治×Web3の新モデルとして再評価される可能性もある。
■ 株主に問われる「信念」
TMTGの第3四半期報告は、単なる財務データではなく「トランプブランドの持続力」を問うものだ。
84億円の損失の裏側には、政治・テクノロジー・金融を融合させようとする挑戦がある。
果たしてそれは“赤字の連続”で終わるのか、それとも「新時代のメディア帝国」の序章となるのか。
市場は今、静かにその答えを待っている。

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