目次
「外国の国旗は守るのに、日本国旗は守らない」という現在の日本
2026年5月15日、自民党は、日本国旗を故意に傷つける行為を処罰する「国旗損壊罪」の創設に向けた法案骨子を議論しました。しかし、最終的に了承は見送られました。このニュースを見て、「なぜ?」「意味が分からない」と感じた人も多かったのではないでしょうか。
実際、現在の日本の法律を見ると、多くの人が違和感を覚えるのは自然です。現在の刑法には「外国国章損壊罪」が存在しています。これは外国の国旗や国章を侮辱目的で損壊した場合に処罰する法律です。つまり、アメリカ国旗や中国国旗、韓国国旗などを故意に燃やしたり破ったりした場合、刑事罰の対象になる可能性があります。
しかし、その一方で、日本国旗を直接保護する法律はありません。そのため現在は、「外国国旗を燃やすと処罰対象になり得るが、日本国旗を燃やしても直接処罰する法律がない」という状態になっています。
この構造に対して以前から、「なぜ自国の国旗だけ守られていないのか」という疑問がありました。今回の法案は、その不均衡を是正する意味合いが強かったと言えます。だからこそ、了承見送りに対して「おかしい」と感じる人が多いのです。
今回の法案はどんな内容だったのか
今回、自民党が検討した法案骨子では、日本国旗を故意に損壊する行為を処罰対象にする方向でした。さらに、単に損壊するだけでなく、その様子を撮影し、SNSなどへ投稿する行為まで処罰対象に含める内容が検討されていました。
法定刑は、「2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金」で、これは現在の「外国国章損壊罪」とほぼ同じ水準です。つまり、特別に重い刑罰を導入しようとしていたわけではありません。
また、リポストや報道目的の利用など、第三者による拡散行為は対象外とする方向も示されていました。つまり、自民党側としては、「表現の自由に配慮しながら、最低限の国旗保護を行う」という設計を目指していたと考えられます。
それにもかかわらず、党内からは慎重論が相次ぎました。「過剰規制ではないか」「萎縮効果を招くのではないか」「刑事罰まで必要なのか」といった声が出たことで、最終的に了承は見送られたのです。
なぜ慎重論が出たのか 本当に問題視されたポイント
今回の議論で重要なのは、「国旗を大切にすること」に反対する声が中心だったわけではないという点です。慎重派が本当に警戒していたのは、「国家による表現規制」が広がることでした。
今回の骨子案には、「人を著しく不快または嫌悪の情を催させる方法」という表現が含まれていました。しかし、“不快”という感覚は非常に曖昧です。ある人にとっては侮辱でも、別の人にとっては政治的抗議や風刺表現かもしれません。
例えば、映画やアート作品、政治デモ、風刺的パフォーマンスなどとの線引きをどうするのかという問題があります。もし基準が曖昧なまま法律が成立すると、「どこから違法になるのか分からない」という状況が生まれかねません。
慎重派は、そこを問題視しているのです。つまり、「国旗を守ること」自体ではなく、「国家が不快と判断した表現を処罰する前例になること」を警戒しているわけです。
日本が特に慎重になる背景には戦後の歴史がある
日本でこうした議論になると、必ず出てくるのが「戦前の反省」です。戦前の日本では、治安維持法や言論統制、不敬罪などによって、国家批判や政府への反対意見が厳しく制限されていました。
その反省から、戦後の日本国憲法では「表現の自由」や「思想・良心の自由」が非常に強く保障されるようになりました。そのため現在の日本では、「国家が思想や表現に介入し始めること」に対して強い警戒感があります。
特に法学界や憲法学者の間では、「たとえ不快な表現であっても、国家が処罰を始めることには慎重であるべきだ」という考え方が根強く存在しています。
ただ、その一方で、「だからといって日本国旗だけ保護されていない状態を放置していいのか」という疑問が出るのも当然でしょう。特に世界を見ると、中国や韓国、ドイツ、インドなど、多くの国で国旗損壊への刑事罰が存在しています。そのため、「日本だけが異常に慎重すぎるのではないか」と感じる人が増えているのです。
SNS時代だからこそ議論はさらに難しくなっている
今回の問題をさらに複雑にしているのが、SNSの存在です。昔であれば、過激な抗議活動があっても、その場限りで終わることが多くありました。しかし現在では、XやTikTok、YouTubeなどを通じて、一瞬で全国へ拡散されます。
さらに近年は、炎上目的や再生数稼ぎのために過激な行為を行うケースも増えています。そのため保守派の中では、「単なる思想表現ではなく、挑発的パフォーマンスになっている」という危機感が強まっています。
今回、自民党が「SNS投稿」まで処罰対象に含めようとした背景には、こうした時代の変化があります。しかし逆に、SNS時代だからこそ、どこまでを違法とするのかが極めて難しくなっています。AI生成画像や切り抜き動画、ミームなども含め、運用を誤れば過剰規制につながる可能性もあります。
今回の了承見送りは、「国旗を守る必要がない」という話ではありません。むしろ、「国家の象徴を守ること」と「表現の自由をどう両立するか」という問題に、日本社会がまだ答えを出し切れていないことを示していると言えるでしょう。

![]() |


