肥満症薬の開発競争は世界的に激化しており、特に米イーライ・リリー(Eli Lilly)とデンマークのノボ ノルディスク(Novo Nordisk)の2社が市場をリードしています。イーライ・リリーは、外科手術と同等の減量効果を見込む次世代肥満症薬「レタトルチド(retatrutide)」の開発を進めており、米国などで2027年前半にも製造販売承認を申請する見通しです。
レタトルチドの特徴と臨床試験結果
レタトルチドは、GLP-1、GIP、グルカゴンの3つのホルモン受容体に同時に作用する世界初の「トリプルアゴニスト」です。従来の薬が食欲抑制を主な作用とするのに対し、レタトルチドは「食べる量を減らす」だけでなく、「消費するエネルギーを増やす」という二方向から体重減少を目指す点が画期的です。
2026年5月に発表された第3相試験「TRIUMPH-1」では、肥満または過体重で合併症を持つ成人2,339人を対象に80週間(約1年半)の効果が検証されました。その結果、最高用量(12mg)で平均体重減少率は28.3%に達し、これは体重100kgの人で約28kgの減量に相当します。中用量(9mg)で25.9%、低用量(4mg)でも19.0%の減少が確認され、プラセボ群の2.2%減を大きく上回りました。また、約半数の患者が30%以上の減量を達成したと報告されています。
市場規模と競争環境
肥満症薬の世界市場は、2030年までに最大2000億ドル(約32兆円)に達すると試算されています。イーライ・リリーとノボ ノルディスクの2社が市場の約80%を占める寡占状態になると予測されています。ノボ ノルディスクは「ウゴービ(セマグルチド)」、イーライ・リリーは「マンジャロ/ゼップバウンド(チルゼパチド)」で既に市場を席巻しており、レタトルチドはその後継として位置づけられています。
競合としては、米ファイザー、英アストラゼネカ、スイスのロシュなども肥満症薬の開発を強化しており、スタートアップの買収も活発です。日本勢では、中外製薬や塩野義製薬が新薬開発を進めています。
承認スケジュールと今後の見通し
レタトルチドは2026年現在、日本でも米国でも未承認です。残りの第3相試験の結果が2026年後半から2027年前半に揃う見込みで、米国FDAへの承認申請は2026年第4四半期、米国での承認は2027年後半から2028年と予想されています。日本での承認はさらに後ろ倒しとなり、早くても2028〜2029年以降と見られています。
肥満症治療は、かつて「本人の努力次第」と考えられていた時代から、ホルモンや脳の働き、遺伝的要因などが関わる疾患として認識されるようになり、薬物治療の可能性が大きく広がっています。レタトルチドの登場により、肥満外科手術に匹敵する減量効果が薬で実現できる時代が目前に迫っています。

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